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「建築設備工事、施工管理のミニ知識」

2015年12月19日、北海道新聞に「新築道営住宅に不備 釧路ストーブ設置できず」との記事がありました。 この記事は、建築工事の欠陥がどうして起きるかを如実に捉えています。

釧路の新築道営住宅に不備 ストーブ設置できず(北海道新聞 どうしんウェブより)

今回はこの新聞記事から読み取れる建築工事での欠陥が発生する仕組みについてお話します。このような欠陥工事は、現状の施工管理現場においては日常茶飯事で、当たり前のように発生しています。

No.6「欠陥工事はコンストラクションマネジメントの欠如で起きる」

2016.03.03

この記事から読取れる注目点は、次の3点です。

  1. 設計ミス
  2. コンストラクションマネジメントの欠如
  3. 建築工事では、欠陥の責任を監理者はとらない

この不備が発生した主要因は、建築された建物が公営住宅であった事にあります。
公営住宅でのストーブ等の設備工事は入居者の負担であり、建築工事でそれらの設備工事は行いません。ストーブの設備工事の発注がなされないため、該当する設備工事を見る施工管理者がいません。
建築工事は専門業種別に細分化されて発注されます。建築工事を請負った会社としては受注していない工事は施工範囲外です。よって、自分達が受注した工事以外の事は、誰も関知しません。
だから入居者がストーブを設置しようとする時まで、だれも工事の欠陥に気付く事無く、工事が完了し、発注者である道(北海道)は、欠陥がある事に気付かず建物の引渡しを受けてしまったのです。

注目点 ①: 設計ミス について説明します

これまで、何度となく建築設計図について説明をさせて頂いた通り、建築設計事務所が作る設計図は未完成図です。完成度は50%と考えてください。残りの50%は、現場で工事会社の施工管理技術者が仕上げ、施工図と呼ばれる工事用の実図面として完成させます。(これが無いと、職人は建物を造る事が出来ません。)つまり、設計にミスがあるのは当たり前です。それを設計事務所の施工監理者と現場の施工管理者が、詳細について検討、修正して工事を進めていきます。
もし工事現場での打合せで、「設計図通りやれ」と発言する監理者がいたとしたら、その人は全く工事を知らない素人です。施工管理者は、設計図通りでは不具合があるから、監理者に提言しているのです。
現場からの提言を無視する監理者は、これから造られる建物で暮らす人の事を考えずに、監理者という自分の立場を守る事しか考えていません。施主様(発注者)に申しあげます
もしこのような人がいましたら、担当者の交代を要請してください。その人を使い続けたら、あなたの大切な建物はぐちゃぐちゃにされて、体裁だけを整え、「素晴らしい建物が完成しました」と言われて、あなたは、引き渡しを受ける事になります。

注目点 ②:コンストラクションマネジメントの欠如

主要因でほぼ説明しましたが、一般の工事のようにストーブの設備工事が発注されていたら、ストーブを担当する設備工事の「施工管理者」が現場にいて、この不備に気付き、建築設計事務所の「監理者」に不具合点を提言して、早い段階で設計の修正が行われた事でしょう。
しかし、この現場には該当する工事担当者がいなかった。
施工監理は建築士のいる建築設計事務所ですから、このような不備を見つけるのは監理を請負った建築設計事務所の仕事です。しかし、施工経験が無い設計事務所の設計者や施工監理者に「施工現場の問題点に気付けよ」と言っても無理な話です。
ここではコンストラクションマネジメントが欠如していて、発注者が、欠陥に気付く手段を持っていなかった、と言えます。

注目点③:建築工事では、欠陥の責任を監理者はとらない

この工事ではストーブを取付ける工事業者が存在しなかった。通常は責任施工の名目で責任は工事会社が取らされます。しかし、今回は残念にも該当業者がいなかった。仕方がないので設計者が悪いとなり、設備設計を担当した建築設計事務所の下請けの会社に責任を押しつけました。
何か変だと思いませんか。法律上では建築物の設計は、建築士以外が行ってはいけない事になっています。通常、建築士になれるのは、学校の建築科を卒業した者だけで、それ以外の学科を卒業した者が、建築士になるには、2重3重のハードルをクリアーしなくては、とてもなれるものではありません。
建築の設備設計図は、建築士事務所だけが作れるものです。設備会社の設備工事技士は建築士ではありません。つまり設計図を作ったのではなく、あくまでアドバイス的な図面を描いただけです。
建築設計の建築士事務所は、設備会社に描かせた図面を確認し内容を精査し修正して、建築設備設計図として発注者に納めています。設計の責任も施工監理の責任も建築設計事務所にありますが、自社にミスがあっても自社の非とせず、下請けに責任転換をした事がこの新聞記事から読取れます。

インターネット上で、コンストラクションマネジメントを検索すると、大手建築設計事務所がコンストラクションマネジメントを行いますというホームページを見かける事でしょう。
感の良い方は察しがつくと思いますが、建築設計会社にコンストラクションマネジメントを依頼すると、都合の悪い事は全て隠され、施主は何も知らされないで欠陥に気付かず「いい建物です」と言われて引き渡される事になります。
現状の施工監理は、建築工事の発注形態による上下関係での利害関係を守る事が主目的で、消費者である施主様(発注者)に、不具合を気付かれないようにする為に作られた監理システムと言っても過言ではありません。
「私は不利益を被っても、かまわない」とする施主様(発注者)は誰一人としていない事でしょう。
現場で何が行われているのかわからないまま、建築工事を人任せに出来るでしょうか。
だから、発注者は建築設計事務所に施工監理を依頼し、先生と呼んで、全幅の信頼を寄せて工事を依頼されている事でしょう。でも、先生が間違えた時に「私が間違えました」と素直に認める先生が学生時代に見た事がありますか。冷静に考えましょう。騙されるべくして騙されるのです。こんな時には第三者委員会を設けて検証しましょうとなりますね。そうです、第三者的な立場で工事を見る事が出来る工事の専門家が必要になります。これがコンストラクションマネジメントの始まりです。
「監理」と「管理」、読み方は同じですが、まったく違います。たとえば「芸術家」と言っても「彫刻家」と「画家」のように違います。彫刻を依頼するのに「画家」に依頼しますか。
物造りの最終工程は施工現場になります。そこを「かんり」するのが「施工管理」です。
コンストラクションマネジメントは施工現場に密着した「施工管理」なのです。
建築工事においては、「監理」と「管理」の二つはなくてはならないものです。どちらが欠けても建物は造れません。この二つの「かんり」に、上下関係があっては、建物は傾いてしまいます。
施主様(発注者様)に申しあげます。「餅は餅屋」くれぐれも、依頼先を間違えないようにご注意ください。

「そうは言うけど、コンストラクションマネジメントを依頼したくても依頼先をどうやって探す?」
気付きましたね。大問題の発生です。日本ではここで挙げた利害関係が技術者の育成を阻んできました。対応出来る技術者の絶対数が不足しています。
次回からは、どうやって技術者を確保するか?どうやって技術者を育てるか?について話を進めていきましょう。