No.5「通訳が必要」
2015.10.30
前回一例として紹介しました、「発注者が知る事が出来ない不具合」を読まれてお気付きと思いますが、物造りの現場にいる施工管理の担当者は不具合に気付いているのに、書類作りをしている施工監理の担当者は、物造りの現場の声を封じ込め、書類だけで工事を把握しようとする結果、出来上がった建物を評価するのではなく、提出された書類の出来栄えで評価を下す為、発注者の方がお金を払って手に入れたい建物に不具合がある事に気づかない?と言う申し訳ない建物が引き渡されます。
「建築だって物造りのはずです」発注者の方が欲しいのは、安心して使える建物で、ミス無く監理をしましたと言う証拠の書類ではないはずです。
今回のような不具合の実態が世に出るごとに、現場では、物造りではなく書類作りに多くの時間が割かれるようになり、時間だけが空回りしています。 「やってられないよ」そんな声が飛び交います。誰の為の建物を、現場の私たちは造っているのでしょうか?首をかしげる毎日です。だから、建築工事を行うには、自ら監理(コンストラクションマネジメント)が、必要です。
しかし、自ら監理しようと言っても、何をどう見たらいいのか、図面を見ても何が書いてあるのか、どうゆう意味かもわかりません。工程表を見せられても、何がいつどう行われるのかもわかりません。
設計事務所の監理の方が、「こうします。」「ああしましょう。」と言っても何のことかわかりません。(ちなみに、建築の現場で最も権限を持っている人は、発注者から監理を任された、監理者です。 この方々が決めた事をくつがえす事が出来るのは発注者だけです。
よく欠陥問題が騒がれると元請会社の建築工事会社がいけないと言われますが、工事の元請会社もこの監理者には逆らう事はできません。つまり、建築工事のすべての事は、現場にいないスーツ姿の監理者が決めているのです。すべて紙の上で。)
発注者の方が現場で物造りをしている方と話し合い、現場で何をしているのかを知り、どうやって工事を無事に納めるかを見きわめる為には、「発注者と現場が話し合える通訳的な人」が必要なのです。 自ら監理なのだから、「監理」に通訳させればいいのでないか?と思うとかもしれません。
それは、違います。設計事務所の「監理」と現場の「管理」は、まったく違う業種です。コンストラクションマネジメントは現場の「管理」ですから、知識も経験も言葉も違います。「監理」では現場との通訳は、できません。もし、それが可能なら、最近取沙汰されているような、不具合は発生していないはずです。
国土交通省は、コンストラクションマネジメント活用ガイドラインを、平成14年2月6日にまとめています。今は平成27年です。既に13年の時が空回りのごとく過ぎ去ってしまいました。 コンストラクションマネジメントを難しく考えないでください。 ようは「発注者が現場と話しあう為の通訳」を、雇うと考えてください。導入のハードルはぐっと低くなります。
今回発生した横浜のマンションの傾きの原因となった杭の問題、現場の「管理」の担当者がニュース報道で伝えられた通りルーズな奴で、計測データを紛失したからでしょうか?
では、「コンストラクションマネジメント的に通訳」してみます。
「横浜のマンション傾き問題をコンストラクションマネジメント的に通訳したら」
(注:以下に書く事は、現場管理の経験をもとに推測した事で、事実は今後の調査結果で明らかになる事で、あくまで参考的なものの見方であるとして読んでください。)
ニュース番組の報道から聞き取るに、使用された杭は設計図通りの長さであった。つまり、設計段階での調査不足で発生した設計ミスがあった。
設計事務所は、自社の設計にミスがあったとは公に出来ない。したがって設計事務所の「監理」者は、 設計ミスが原因で工期が遅れますとは、発注者には報告出来ない。また、設計事務所は工事で発生した不具合を是正する費用の負担はしないし、その責任を負うことはない。
現場の担当者は、設計図通りの杭を発注して打設した。その時の打設計測データで、杭が支持層に到達していない事を知る。当然現場は元請に報告を上げる。元請は当然「監理」者に報告する。なぜ、当然報告と言いきるのは、その責任を押し付けられたくないからです。
だから、下から上に必ず報告は上がります。
問題となった杭は杭打ち工期の最後の4本。工期が無い。杭を作り直す時間が無い。「支持層近くまで杭は到達している、残り4本このまま進めても大きな問題は起こる事はないだろう」杭打ち続行の指示が上からくだされ、現場「管理」の担当者は指示通り杭を打設して工事を完了させる。 有ってはいけない杭打時の計測実データは処分され、別の現場のデータに差し替えられる。(問題の杭の打設のデータだけが、たまたま紛失するなんて、どう考えても不自然です)
設計事務所は、設計ミスとは言えない。工事会社は、お金も貰えないのに高価な杭を自腹で造り直せない。お客様には、完成工期を約束している。工期を1ケ月も遅らせるなどと言ったら、違約金を請求される。何事もなかったように工事を進めるしか方法がない。
当然のように発注者には報告されずに事実は伏せられます。(すべては、利害関係の中で判断されます。関係者で知らないのは、発注者だけです。これが、今の日本の建築業界、建築施工監理の現状です。現場は、不具合が生じた事を当の昔に報告しています。監理システムは、既に崩壊しています。そんな中で、検査書類だけ増やしても発注者には利はありません。現場にいない者が、検査に来ても何一つ見抜く事は出来ません。)
現場が知っていただろうと言う事を裏付ける事例を、ニュース映像から見抜けます。
現場に近い存在の旭化成建材の社長は毅然とした態度で、動揺していません。現場から遠い親会社の旭化成の社長は泣き出さんばかりの表情で動揺を隠せません。現場は上に報告済みなのです。 それなのに、「管理」の現場担当者は、全国指名手配の犯罪人のように報じられ、事件はトカゲのしっぽ切りで完結させようとしています。
と、通訳しましたがいかがでしょうか?
コンストラクションマネジメントでは、「管理者」を利害関係の外に配置します。つまり、見た事、聞いた事は発注者に報告し相談をする事になります。(ただし、賄賂で丸めこまれない限り。また、利害を損ねると業界からも圧力がかかるでしょう。やってくれる会社はでてくるのでしょうか?私は逆だと思います。) 発注者と隠し事なしで話せるようになれば、もう、ばれたらどうしようと必死に隠す努力と無駄な労力を減らせます。何よりも不具合が発覚した時の損害賠償のダメージを減らせます。だから、67年前にアメリカで、この管理システムが生まれているのです。 日本って、ずいぶん遅れていますね。
最後に、ある現場「管理」の所長がいつも言っている言葉を紹介します。
「安全を確保して、品質を確保して、それから工程がある」
工期ありきの工事は、「関係者すべてを不幸にする」と言ってもいいかもしれません。
時間に厳しい日本人には難しい事でしょうか。